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ABM(アカウントベースドマーケティング)とは?基礎から実践方法、ツール選びまで徹底解説

近年、BtoBマーケティングの現場では「数を追う」施策から「狙う企業に集中する」戦略へとシフトが進んでいます。その中心にあるのが、ABM(アカウントベースドマーケティング)です。ABMは、自社にとって価値の高い企業を特定し、営業とマーケティングが一体となって最適なアプローチを行う手法として注目を集めています。

本記事では、ABMの基本概念から従来手法との違い、導入メリット、実践ステップ、さらにツール活用までをわかりやすく解説します。これからABMを導入したい方や、既存施策を最適化したい方は、ぜひ参考にしてください。

目次[非表示]

  1. 1.ABMとは?基本概念と従来マーケティングとの違い
    1. 1.1.ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)とは
    2. 1.2.マスマーケティングやリード獲得型マーケティングとの違い
    3. 1.3.BtoB営業でABMが注目される背景
  2. 2.ABMのメリットとデメリット
    1. 2.1.ABMがもたらす営業・マーケティング効率化のメリット
    2. 2.2.ABM導入における課題や失敗しやすいポイント
    3. 2.3.ABMが向いている企業・向いていない企業
  3. 3.ABMの具体的な進め方のポイント
    1. 3.1.ターゲットアカウントの選定方法
    2. 3.2.重要人物(キーパーソン)との関係構築
    3. 3.3.成果を最大化するためのデータ活用
  4. 4.ABMを成功に導くためのツール活用
    1. 4.1.ツール活用が不可欠な理由(属人的運用の限界)
    2. 4.2.ABMで使える代表的ツール
      1. 4.2.1.①CRM(顧客関係管理)ツール
      2. 4.2.2.②MA(マーケティングオートメーション)ツール
      3. 4.2.3.③企業リスト作成ツール
      4. 4.2.4.④データ統合・アナリティクスツール
      5. 4.2.5.⑤アカウント選定支援・インテントデータツール
  5. 5.まとめ

ABMとは?基本概念と従来マーケティングとの違い

ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)とは

ABM(Account-Based Marketing)とは、特定の企業(アカウント)をターゲットに据えて行うBtoBマーケティング手法です。従来のように「幅広いリード(見込み顧客)」を集めるのではなく、あらかじめ自社の売上・戦略に最も寄与する可能性の高い企業群を選定し、その企業に合わせた戦略的アプローチを行います。

つまり、ABMは誰にでも届くマーケティングではなく、狙うべき相手に深く刺さるマーケティングです。営業とマーケティングが連携し、ターゲット企業ごとにコンテンツやコミュニケーションを最適化することで、より高い商談率・成約率を目指します。

ABMの基本プロセス(概要)

フェーズ

目的

主な活動内容

①ターゲット選定

重点顧客の特定

企業規模・業界・収益性などでアカウントリストを作成

②施策設計

顧客課題に基づく戦略立案

各企業に合わせた提案テーマやチャネル戦略を決定

③実行

パーソナライズされた施策展開

広告・メール・ウェビナー・営業訪問などを統合運用

④ 効果検証

ROIの可視化

商談化率・受注金額・LTVなどで成果を分析

マスマーケティングやリード獲得型マーケティングとの違い

従来のマーケティングでは、主にリード(個人)を起点とし、メール配信や広告などで多数の見込み客を獲得するマスマーケティングやリードジェネレーション(リード獲得型)が主流でした。一方、ABMでは企業単位でアプローチする点が最大の違いです。

比較表

項目

マスマーケティング/リード型

ABM(アカウントベース型)

ターゲット

幅広い個人リード

特定の企業アカウント

目的

リード数の最大化

売上・受注率の最大化

アプローチ方法

一律のメッセージ

企業別・担当者別に最適化

成果指標

リード数、CTRなど

商談化率、受注率、LTVなど

営業との関係

分業(情報連携が弱い)

緊密な連携による共通目標

このように、ABMは「量から質」への転換を実現します。限られたリソースを最も有望な企業に集中投下することで、ROI(投資対効果)の最大化を狙うのです。

BtoB営業でABMが注目される背景

ABMがBtoB営業の現場で注目を集めている背景には、ビジネス環境や購買行動の変化が大きく影響しています。従来のリード獲得型マーケティングでは、多くの見込み顧客を獲得しても、実際に商談化や受注に至るケースが限られていることが課題でした。近年は、営業効率を高めるために「質の高い見込み顧客」に焦点を当てる必要性が高まり、その解決策としてABMが注目されています。

まず、BtoBの購買プロセスが複雑化していることが大きな要因です。企業間取引では、導入の意思決定に複数の関係者が関わるのが一般的です。経営層、現場担当者、情報システム部門など、立場の異なる関係者がそれぞれの視点で評価を行うため、個人単位のリード管理だけでは購買行動を把握しきれません。企業単位でのアプローチ、すなわち「アカウントベース」の思考が必要になっています。

さらに、CRM(顧客関係管理)やMA(マーケティングオートメーション)などのツールの発展もABM普及を後押ししています。これらのツールによって、企業ごとの行動データを詳細に把握できるようになり、どの企業が自社製品に関心を持っているのか、どのタイミングでアプローチすべきかを可視化できるようになりました。データドリブンな営業・マーケティング戦略が可能になったことで、ABMは実践的かつ再現性の高い手法として確立しつつあります。

ABMのメリットとデメリット

ABMがもたらす営業・マーケティング効率化のメリット

ABM(アカウントベースドマーケティング)の最大の特徴は、営業・マーケティング双方の効率化を実現できることです。従来のように数多くのリードを追いかけるのではなく、「確度の高い企業」だけに焦点を絞るため、無駄なアプローチやリソースの浪費を減らせます。

特にBtoBビジネスでは、1件の受注単価が高く、購買サイクルも長期化しがちです。そのため、ターゲットを明確にした深い関係構築が成果に直結します。ABMを導入することで、マーケティング施策と営業活動を同一の目標に沿って設計でき、より戦略的な収益モデルを描けるようになります。

ABMがもたらす主なメリットは以下の通りです。

メリット

説明

リソースの最適化

高い成約可能性を持つ企業に絞り込むことで、人的・広告リソースを効率的に配分できる。

営業・マーケティング連携の強化

両部門が共通のターゲットとKPIを共有することで、施策の一貫性が向上。

顧客理解の深化

企業単位での情報蓄積により、顧客課題に合わせた最適な提案が可能になる。

ROIの可視化

企業別の施策効果を定量的に測定でき、投資対効果の最大化につながる。

長期的な関係構築

受注後も関係を維持・拡大しやすく、LTV(顧客生涯価値)の向上が見込める。

このようにABMは、単なるマーケティング手法ではなく、企業全体の収益構造を変革する戦略的フレームワークとして位置づけられています。

ABM導入における課題や失敗しやすいポイント

ABMには多くの利点がある一方で、導入・運用には注意が必要です。まず課題となりやすいのが、ターゲット選定の精度です。ABMでは、どの企業を「重点アカウント」として扱うかが成功の鍵を握ります。選定基準が曖昧なままリストを作成してしまうと、結果的に成約に結びつかないアプローチが増え、ROIを下げてしまいます。

また、ABMは短期的な成果を求める施策ではない点にも注意が必要です。見込み企業との信頼構築や、キーパーソンとの関係性醸成には一定の時間がかかります。そのため、経営層やチーム全体が中長期的な視点で取り組む姿勢を持つことが重要です。

さらに、社内のKPI設定にも課題があります。ABMでは「リード件数」よりも「ターゲットアカウント内での関係深化」や「商談化率」が重視されるため、従来の評価指標をそのまま適用すると成果が見えづらくなります。新しい指標体系を設計することが、成功への第一歩です。

ABMが向いている企業・向いていない企業

ABMは万能な手法ではなく、企業のビジネスモデルやリソース状況によって向き不向きがあります。ABMが特に効果を発揮するのは、高単価商材を扱うBtoB企業や顧客接点が限定的な業種です。

ABMが向いている企業の特徴

  • 1件あたりの取引額が大きい(例:ITソリューション、コンサルティング、製造装置など)
  • 意思決定に複数のステークホルダーが関与する
  • 営業とマーケティングの両部門が協働できる組織体制を持つ
  • CRMやMAなど、顧客データの蓄積・分析環境が整っている

一方で、ABMがあまり向いていないのは、短期間で大量の顧客を獲得する必要があるBtoC型ビジネスや低単価商材です。このような場合は、マスマーケティングやリードジェネレーション型の手法の方が効率的に成果を出せます。

ABMの具体的な進め方のポイント

ABMを成功させるためには、明確な戦略設計と営業・マーケティングの連携が欠かせません。ここでは、実際にABMを推進する際に重要となる3つのステップを解説します。

ターゲットアカウントの選定方法

ABMの最初のステップは「狙うべき企業=ターゲットアカウント」を選定することです。ここでの精度が施策全体の成果を左右します。むやみに大手企業をリスト化するのではなく、自社の提供価値と最も親和性の高い企業群を見極めることが重要です。

選定にあたっては、以下の3つの視点から評価するのが効果的です。

1.定量データ(ファームグラフィック)

企業規模、業種、売上高、従業員数、地域などの基本情報を基に、客観的に選定します。例:売上100億円以上の製造業/関東圏に本社を持つ企業 など。

2.行動データ(テクノグラフィック・インテントデータ)

Webアクセス、資料ダウンロード、ウェビナー参加など、企業の購買意欲を示す行動データを活用します。最近では、意図データ(Intent Data)を収集できるツールを活用し、「今まさに課題を感じている企業」を特定することも可能です。

3.営業現場の知見(定性評価)

営業担当者が日々の商談から得た知見も重要です。過去に反応の良かった企業群や、接点を持っているが受注に至っていない企業など、現場感のある情報を統合することで、実践的なターゲットリストが作成できます。

最終的には「売上インパクト × 成約確度 × アプローチ可能性」の3要素でスコアリングを行い、優先度を決定します。

重要人物(キーパーソン)との関係構築

ターゲット企業が決まったら、次に取り組むべきは意思決定者や影響力を持つ人物(キーパーソン)との関係構築です。BtoB商談では、導入可否を決める経営層や実務担当者、技術責任者など複数の関係者が関与するため、単一の接点だけでは成果につながりにくいのが現実です。

関係構築の基本は、「相手の課題や関心に寄り添った価値提供」です。製品の売り込みではなく、業界動向・課題解決の知見を共有する情報発信から始めるのが効果的です。

例えば以下のような方法があります。

  • 業界別の課題分析レポートを共有する
  • 共通テーマでウェビナーを開催し、ナレッジを提供する
  • LinkedInなどでの情報発信・コメント交流を通じて信頼を積み重ねる

また、マーケティング部門が獲得したデータをもとに、営業が「今、誰に何を伝えるべきか」を判断できるよう連携することも重要です。顧客の関心が高まるタイミングを逃さず、パーソナライズされた提案を行うことで、関係性が一段と深まります。

このような「企業単位+人物単位」の両軸アプローチこそ、ABMの中核と言えるでしょう。

成果を最大化するためのデータ活用

ABMでは、データの活用と営業・マーケティングの連携が成功の鍵を握ります。特に、データドリブンな意思決定とリアルタイムな情報共有が、成果を最大化するためのポイントです。

まず、データ活用の観点では、企業ごとに「どのチャネルで、どのような反応があったか」を追跡・分析します。例えば、特定企業が資料を複数回ダウンロードしている場合や、ウェビナー後に複数の社員がWebサイトを訪問している場合などは、購買意欲が高いサインです。

このようなデータを可視化し、営業が即座にアクションを起こせる仕組みを整えることで、機会損失を防げます。

ABMを成功に導くためのツール活用

ABMは、戦略の立案だけでなく、運用段階での「データ管理」と「顧客対応の一貫性」が重要です。これを人手だけで実現するのは困難であり、ツールの導入と活用が成功のカギを握ります。ここでは、ツールを活用すべき理由と、代表的なABM関連ツールを紹介します。

ツール活用が不可欠な理由(属人的運用の限界)

ABMは、特定の企業ごとに施策を設計・実行するという特性上、情報量と業務の複雑性が非常に高くなります。担当者の経験や勘に頼る運用では、正確なデータ把握やタイムリーなアクションが難しく、スケールさせることができません。

例えば、マーケティング部門が複数のターゲット企業へメール配信や広告を行い、営業部門が個別に商談を進めている場合、顧客との接点や進捗状況を一元管理しないと、以下のような問題が生じます。

  • 各担当者の情報が分散し、顧客理解が浅くなる
  • 同一企業への重複アプローチによる信頼低下
  • 成果データが不明確になり、ROIを測定できない

こうした属人的な運用の限界を超えるために、ABMではツールを活用してデータを統合・自動化し、チーム全体での情報共有を標準化することが不可欠です。

ABMで使える代表的ツール

ABMを実践する上で活用できるツールは多岐にわたりますが、目的に応じて以下のようなカテゴリに分けて考えると分かりやすいです。

ここでは、国内外で多くの企業が採用している代表的なツールを紹介します。

①CRM(顧客関係管理)ツール

ABMの基盤となるのがCRMです。営業活動の履歴や顧客情報を一元管理し、チーム全体で顧客接点を共有できます。

代表例としては Salesforce や HubSpot CRM が挙げられます。これらはマーケティングツールやSFAと連携しやすく、顧客データの中心的なハブとして機能します。

②MA(マーケティングオートメーション)ツール

マーケティング活動を自動化・効率化し、見込み企業の育成を支援するツールです。

ABMにおいては、企業単位でのメール配信やスコアリング、パーソナライズされたコンテンツ提供に役立ちます。代表的なツールにはMarketo Engage、Salesforce Account Engagement、HubSpot Marketing Hub などがあります。

③企業リスト作成ツール

ターゲットアカウントを精度高く選定するためには、企業データベースやリスト作成ツールの活用が不可欠です。ABMでは、企業規模・業種・地域・課題などの条件で絞り込み、自社にとって最も価値の高いアカウントを効率的に抽出することが求められます。

中でも注目されているのが LEADPAD(リードパッド) です。LEADPADは、国内の法人データベースをもとに、企業情報の詳細な検索・スコアリング・リスト生成が可能なツールです。また、SFAやCRMと連携してリストを自動更新できるため、常に最新の企業データに基づいたABM運用を実現します。その他にも、FORCAS や Musubu などが代表的な企業リスト作成ツールとして知られています。

④データ統合・アナリティクスツール

ABM施策の効果を定量的に評価するためには、データの可視化と分析が欠かせません。Tableau や Looker Studio(旧Google Data Studio) を使えば、アカウント単位での行動データや商談進捗をダッシュボード化し、成果をリアルタイムで追跡できます。

⑤アカウント選定支援・インテントデータツール

近年注目されているのが、購買意向を分析する「インテントデータ」ツールですZoomInfo や Bombora は、ターゲット企業がどのような情報を検索・閲覧しているかを分析し、購買意欲の高い企業を特定します。これにより、ABMの初期段階で精度の高いターゲットリストを作成できます。

まとめ

ABM(アカウントベースドマーケティング)は、従来の「量を追う」マーケティングから「質を重視する戦略」への転換を実現する手法です。特定の企業に焦点を当て、営業とマーケティングが一体となって関係を深めることで、より高い成約率と長期的な顧客価値を生み出せます。

成功の鍵は、正確なターゲット選定とデータを軸とした継続的な改善にあります。CRMやMA、LEADPADのようなツールを活用し、属人的な運用から脱却することで、ABMは企業の成長戦略として強力に機能します。今こそABMを自社の収益モデルに組み込み、戦略的な顧客開拓を始めましょう。

南 雄偉
南 雄偉
新卒でセールステックベンダーへ。入社後7年間フィールドセールスへ従事。インサイドセールスの立ち上げや、セールスチームのマネジメントを経験後、Rocketsへ入社。現在はセールスマネージャー担当。

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